高次脳機能障害の症状を具体例で解説|物忘れ・ミス・段取り・怒りっぽさはなぜ起こる?
「同じことを何度も聞くようになった」
「以前はできていた家事や仕事でミスが増えた」
「何から始めればよいか分からなくなっている」
「病気や事故のあと、急に怒りっぽくなった」
脳卒中や交通事故などによって脳が損傷したあと、このような変化が現れることがあります。
周囲からは「不注意」「やる気がない」「性格が変わった」と受け取られやすいものの、その背景には高次脳機能障害の症状が関係している可能性があります。
高次脳機能障害の代表的な症状は、記憶障害・注意障害・遂行機能障害・社会的行動障害です。本人自身が変化に気づきにくい場合や、複数の症状が重なって現れる場合もあります。

高次脳機能障害の原因や診断、回復、社会復帰までの全体像については、こちらの記事で解説しています。
高次脳機能障害とは?症状・回復・社会復帰まで解説|札幌で相談できる支援も紹介
高次脳機能障害の代表的な症状
行政上の診断基準では、脳の損傷により記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが生じ、日常生活や社会生活に制約がある状態が高次脳機能障害として整理されています。
生活の中では、次のような変化として現れます。
| 主な症状 | 生活の中に現れやすい変化 |
|---|---|
| 記憶障害 | 同じ質問を繰り返す、約束を忘れる、新しい手順を覚えにくい |
| 注意障害 | ミスや見落としが増える、集中が続かない、同時に二つのことをすると混乱する |
| 遂行機能障害 | 段取りを組めない、優先順位を決められない、指示がないと始められない |
| 社会的行動障害 | 怒りっぽくなる、我慢しにくい、強くこだわる、意欲が低下する |
| 自己認識の難しさ | 本人は「以前と変わらない」「問題なくできる」と感じている |
この表は診断のためのチェックリストではありません。実際の診断では、受傷や発症の経過、画像検査、神経心理学的検査、日常生活への影響などを総合的に確認します

「何度言っても忘れる」記憶障害
記憶障害では、新しく経験したことや聞いたことを覚えておくことが難しくなります。
例えば、次のような変化です。
- 同じ質問を何度も繰り返す
- 話した内容や約束を忘れる
- 薬を飲んだことを覚えていない
- 物を置いた場所が分からなくなる
- 新しい道順や仕事の手順を覚えにくい
- 病気や事故の直前・直後の出来事を思い出せない
本人は、質問したことや説明を受けたこと自体を覚えていない場合があります。そのため、「さっきも説明したでしょう」と言われても、なぜ注意されているのか分からないことがあります。国立障害者リハビリテーションセンターでも、物の置き場所を忘れる、新しい出来事を覚えられない、同じ質問を繰り返すといった変化が記憶障害の例として示されています。
これは、本人が話を聞いていないことや、覚えようとしていないことを意味するとは限りません。
「ミスが増えた・同時に二つできない」注意障害
注意障害では、必要な情報へ注意を向け続けることや、複数の情報を処理することが難しくなります。
生活の中では、次のような形で現れます。
- 作業中のミスや見落としが増える
- 会話の途中で気がそれる
- 周囲の音や人の動きが気になって集中できない
- 作業を長く続けられない
- 話を聞きながらメモを取ると混乱する
- 料理をしながら別の作業をすると手順が分からなくなる
- 人混みや騒がしい場所で強く疲れる
一対一の会話では問題がないように見えても、人が多い場所や複数の作業が必要な場面では、困りごとが目立つことがあります。
国立障害者リハビリテーションセンターでは、ぼんやりしてミスが多い、二つのことを同時に行うと混乱する、作業を長く続けられないことなどが注意障害の例として挙げられています。
「何から始めればよいか分からない」遂行機能障害
遂行機能障害では、目標を決め、必要な手順を考え、順序立てて行動することが難しくなります。
例えば料理では、単に包丁を使えるか、食材を切れるかだけでなく、
- 献立を決める
- 必要な材料を確認する
- 作業の順番を考える
- 複数の調理を並行して進める
- 完成時間に合わせて調整する
といった多くの判断が必要です。
遂行機能障害があると、個々の動作はできても、全体の段取りを組み立てられないことがあります。
そのほかにも、次のような変化が見られます。
- 何から始めればよいか決められない
- 優先順位をつけられない
- 計画を立てても予定どおり進められない
- 指示されればできるが、自分から始められない
- 想定外の出来事があると対応できない
- 一つのやり方から別の方法へ切り替えられない
- 約束の時間に間に合わない
周囲からは「自分で考えない」「やる気がない」と見えることがありますが、計画を立てて実行する脳の働きが影響している可能性があります。
「怒りっぽい・こだわる・意欲がない」社会的行動障害
社会的行動障害では、感情や行動を周囲の状況に合わせて調整することが難しくなります。
「社会的行動障害」という名前から、暴力的な行動だけを想像する方もいるかもしれません。しかし、実際にはさまざまな形があります。
- 以前より怒りっぽくなった
- 些細なことで強く反応する
- 思ったことをすぐ口にしてしまう
- 欲しいものや行動を我慢しにくい
- 一つの考えや方法に強くこだわる
- 相手の表情や気持ちを読み取りにくい
- 家族や周囲の人へ過度に依存する
- 意欲が低下し、自分から動かなくなる
家族からは「別人のようになった」「性格が変わってしまった」と感じられることがあります。
ただし、すべての言動を障害だけで説明できるわけではありません。体調、疲労、環境、人間関係なども影響します。病気や事故のあとに、それまで見られなかった大きな変化が現れた場合は、本人の性格や努力だけの問題と決めつけず、専門職へ相談することが大切です。
本人が自分の症状に気づきにくいこともある
高次脳機能障害では、本人が自分の変化や困りごとを十分に認識できない「病識欠如」が見られることがあります。
本人は、
- 病気や事故の前と同じようにできている
- 仕事にもすぐ戻れる
- 支援を受ける必要はない
- 家族が細かく注意しすぎている
と感じている場合があります。
「本人が困っていないと言っているから、問題はない」とは限りません。自分の状態を客観的に捉えること自体が難しくなっている可能性があるためです。国立障害者リハビリテーションセンターのQ&Aでも、自分に障害があることをうまく認識できない状態が症状の一つとして説明されています。
本人の認識だけでなく、家族や職場から見た変化、実際の生活場面で起きていることを一緒に確認する必要があります。
失語・失行・失認などを伴う場合もある
脳の損傷部位や程度によっては、次のような症状を伴うことがあります。
失語
言葉を話す、聞いて理解する、読む、書くことが難しくなる状態です。
失行
手足を動かす力があっても、道具を使う、服を着るなど、目的に合った動作がうまくできなくなる状態です。
失認
目や耳などに大きな問題がなくても、見たものや聞いたものが何であるか認識しにくくなる状態です。
また、視野の片側へ注意を向けにくくなる半側空間無視や、脳の損傷後に強い疲れやすさが現れる場合もあります。
これらの症状は単独で現れるとは限りません。記憶障害や注意障害などと重なることで、生活上の困りごとが複雑になることがあります。
症状が日によって違って見える理由
高次脳機能障害の症状は、いつでも同じ強さで現れるとは限りません。
静かな場所で一つのことに取り組む場合は問題がないように見えても、
- 人や音が多い場所
- 複数の作業を求められる場面
- 長時間の活動
- 疲労がたまっている時間帯
- 予定外の出来事が起きた場面
では、症状が目立つことがあります。
病院では予定や環境が整えられ、職員の支援も受けられるため、困りごとが見えにくいことがあります。その後、自宅や職場など、より複雑な判断を求められる環境へ戻ったときに初めて課題が明らかになるケースもあります。
「できる日とできない日があるから、本人の気持ちの問題だ」と考えるのではなく、どのような状況で困りやすいのかを整理することが重要です。
気になる変化があるときの相談方法
症状だけを見て、本人や家族だけで高次脳機能障害と判断することはできません。
脳卒中や交通事故などのあとに気になる変化がある場合は、まず主治医、医療機関のリハビリテーション専門職、医療ソーシャルワーカーなどへ相談しましょう。

相談するときは、次のような内容を記録しておくと、状況を伝えやすくなります。
- いつから変化が現れたか
- どのような場面で起きたか
- どの程度の頻度で起きているか
- 病気や事故の前と比べて何が変わったか
- 本人と家族の認識に違いがあるか
- 家事、外出、仕事、人間関係へどのような影響があるか
大切なのは、「記憶障害があるか」と症状名だけを確認するのではなく、実際の生活で何に困っているのかを具体的に伝えることです。
高次脳機能障害の評価や、症状に応じたリハビリ、退院後の支援については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
高次脳機能障害リハビリとは?症状別の支援内容と社会復帰までの流れ
なお、しびれ、麻痺、言葉が出ない、意識がおかしいなどの症状が突然現れた場合や、これまでの状態から急に悪化した場合は、高次脳機能障害の症状と決めつけず、脳卒中などの可能性も考えて速やかに医療機関へ相談してください。脳卒中は神経症状が急に現れることが特徴で、早期の治療が重要です。
よくある質問
高次脳機能障害にはどのような症状がありますか?
代表的な症状は、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害です。本人が自分の変化に気づきにくい場合や、失語、失行、失認などを伴う場合もあります。
高次脳機能障害で性格が変わることはありますか?
感情や行動を調整することが難しくなり、怒りっぽさ、こだわり、意欲低下、依存などが現れる場合があります。周囲からは性格が変わったように見えることがありますが、社会的行動障害が関係している可能性があります。
退院してから症状に気づくことはありますか?
あります。病院内では環境や予定が整えられているため、症状が目立たないことがあります。退院後に家事、外出、仕事、人との関わりなどが増えることで、初めて困りごとが明らかになる場合があります。
本人が「困っていない」と言っていても相談できますか?
相談できます。高次脳機能障害では、本人が自分の変化を認識しにくい場合があります。家族や職場が感じている具体的な変化を整理して相談することが大切です。
症状があれば高次脳機能障害と診断されますか?
症状だけでは診断できません。脳の損傷につながる病気や事故の経過、MRIやCTなどの検査、神経心理学的検査、日常生活や社会生活への影響などを総合的に確認します。
まとめ
高次脳機能障害の症状は、物忘れや集中力の低下だけではありません。
- 同じ質問を繰り返す
- ミスや見落としが増える
- 何から始めればよいか分からない
- 怒りっぽくなる
- 強くこだわる
- 自分の変化に気づきにくい
など、生活や人間関係の中にさまざまな形で現れます。
こうした変化は、「本人の努力が足りない」「性格が変わった」という言葉だけでは説明できないことがあります。
大切なのは、症状名を当てはめることではなく、本人がどのような場面で困っているのかを具体的に確認し、必要な評価や支援につなげることです。
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リハビリの新しい選択肢|チャレンジド ジム|SHARE(コーポレート)
1.”退院後のリハビリの新しい選択肢”チャレンジド ジムとは身体障がい・失語症を含む高次脳機能障害の改善に特化した障がい福祉サービス適用の自立訓練(機能訓練)専門施設です。理学療法士・言語聴覚士・作業療法士・看護師等...
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参考情報
国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害を理解する」
国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害診断基準」
国立障害者リハビリテーションセンター「医学的リハビリテーションプログラム」
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