退院後支援で感じた「選択肢が伝わっていない」という現場の課題
「退院後もリハビリを続けたいのですが、どこへ相談すればよいですか?」
「仕事に戻るための練習は、どこでできますか?」
「介護保険のデイサービス以外にも選択肢はありますか?」
医療機関や地域での活動を通じて、本人や家族からこのような相談を受けることがあります。
退院後に利用できる支援がまったくないわけではありません。
外来・訪問・通所リハビリテーション、通所介護、自立訓練、自費リハビリ、指定運動療法施設、フィットネスなど、目的に応じた複数の選択肢があります。
しかし、それぞれが医療・介護・障害福祉・健康増進という異なる制度や領域に分かれているため、本人や家族から見ると、一つの「支援の地図」になっていません。
私が退院後支援に関わるなかで感じてきたのは、選択肢が「ない」という問題だけではなく、すでに地域にある選択肢が、必要としている人へ十分に「伝わっていない」という課題です。

退院後、「次はどうすればよいか」が分からない
病院でのリハビリテーションには、病気やけがの治療、身体機能や日常生活動作の改善、安全な退院など、明確な目的があります。
ところが、退院すると生活の場所が病院から地域へ変わります。
実際の生活に戻ってから、次のような課題が見えてくることも少なくありません。
一人で外出できない
買い物や家事の段取りが難しい
公共交通機関を利用できない
体力が戻らず、すぐに疲れてしまう
運動を続けたいが、安全な方法が分からない
記憶や注意力の問題によって生活がうまく進まない
復職したいが、何から準備すればよいか分からない
家族以外と関わる機会が減ってしまった
入院中に見えていた身体機能だけでは、退院後の生活課題を捉えきれないことがあります。
本人や家族が「リハビリを続けたい」と希望していても、どこで、何を、どの制度を使って続けられるのかが分からなければ、次の行動にはつながりません。
結果として、退院後の支援が必要であるにもかかわらず、「もう受けられるリハビリはない」と諦めてしまう人もいます。
選択肢が「ない」のではなく「見えていない」
退院後に考えられる支援には、さまざまなものがあります。
医療機関での外来リハビリテーション
自宅で行う訪問リハビリテーション
介護保険による通所リハビリテーション
通所介護での機能訓練や生活支援
障害福祉サービスによる自立訓練
制度外で利用する自費リハビリ
医療機関と連携した指定運動療法施設
運動習慣を支える一般フィットネス
復職や就労を支える就労系障害福祉サービス
それぞれに役割があり、対象者、利用条件、費用、利用期間、相談窓口も異なります。
医療サービスは医療機関、介護保険サービスはケアマネジャーや地域包括支援センター、障害福祉サービスは市町村や相談支援専門員というように、制度ごとに入口が分かれています。
支援を受ける本人や家族が、これらの違いを自分たちだけで理解し、適切な相談先を選ぶのは簡単ではありません。
必要なサービスが地域に存在していても、その情報が本人や家族へ届かなければ、実質的には「選べない」のと同じです。
退院後に利用できる具体的な支援については、こちらの記事で整理しています。
→「退院後のリハビリ・運動はどこで続ける?医療・介護・障害福祉からフィットネスまで解説」
専門職にも「制度の外側」は見えにくい
選択肢が伝わっていないのは、本人や家族だけの問題ではありません。
医療・介護・福祉の専門職も、自分が所属する制度の外にある地域資源を、すべて把握することは困難です。
病院の専門職が退院後の生活を軽視しているわけではありません。むしろ、限られた入院期間のなかで、治療や退院調整に懸命に取り組んでいます。
その一方で、次のような構造的な難しさがあります。
地域にどのようなサービスがあるのか把握しにくい
新しい事業所や取り組みの情報が継続的に届かない
医療・介護・障害福祉で相談窓口や利用条件が異なる
実際にどのような支援が行われているか分かりにくい
利用後の生活の変化が、紹介元の医療機関へ戻りにくい
制度の対象になるかどうかを判断しにくい
忙しい臨床現場で地域資源を探す時間を確保しにくい
これは、特定の専門職の知識や努力が不足しているという話ではありません。
医療、介護、障害福祉、健康増進の情報が、それぞれの領域のなかで分断され、地域全体で循環しにくい仕組みになっていることが問題です。
選択肢が伝わらないことで起きていること

選択肢が十分に伝わらないと、本人の状態や目標に合った支援へつながれない可能性があります。
例えば、身体機能はある程度回復していても、記憶や注意、段取りに課題があり、生活の再構築が必要な人がいます。
そのような人に必要なのは、筋力トレーニングだけではなく、外出、買い物、公共交通機関の利用、生活リズム、復職などを含めた支援かもしれません。
一方で、病状が安定し、生活も自立している人には、福祉サービスよりも医療機関と連携した運動施設や一般フィットネスの方が適していることもあります。
選択肢が見えないまま支援先が決まると、次のようなことが起こります。
年齢だけで介護保険サービスが想定される
身体機能だけを見て支援先が決まる
社会参加や復職という目標が置き去りになる
本人の目的とサービスの役割が合わない
運動や外出の機会が減り、生活範囲が狭くなる
家族が相談先を探し続ける
「もうリハビリは受けられない」と本人が諦めてしまう
必要な支援へつながるまでに時間がかかる
支援先を決めるときに大切なのは、「どの制度が使えるか」だけではありません。
本人が何に困っていて、これからどのような生活を送りたいのかを確認する必要があります。
高次脳機能障害では、退院後に課題が見えることもある

特に高次脳機能障害のある人では、病院内では目立たなかった困りごとが、退院後の生活で明らかになることがあります。
歩行や食事、更衣などが自立していても、実際の生活では次のような問題が起こる場合があります。
約束や予定を忘れてしまう
複数のことを同時に進められない
家事や仕事の段取りを組めない
集中力が続かず、強く疲れてしまう
感情をコントロールしにくい
自分の障害や困りごとを認識しにくい
本人と家族で困りごとの認識が異なる
このような場合、身体機能だけで「自立している」と判断すると、必要な支援が見過ごされる可能性があります。
高次脳機能障害のある人の退院後支援では、身体機能だけでなく、認知機能、生活能力、家族関係、社会参加、復職などを含めて考える必要があります。
必要なのは、サービス紹介ではなく「選択を支えること」
地域のサービスを一覧にして渡すだけでは、本人に合った支援を選べるとは限りません。
同じ病名でも、生活上の困りごとや目標は一人ひとり異なるからです。
本当に必要なのは、次のような「選択を支える過程」です。
現在の病状や医学的な注意点を確認する
生活のなかで困っていることを整理する
本人がどのような生活を望んでいるか確認する
医療、生活、社会参加、就労、運動のどこを優先するか考える
利用できる制度と地域の支援先を照らし合わせる
本人や家族が納得したうえで支援先を選ぶ
利用後の変化を確認し、必要に応じて次の支援へつなぐ

例えば、「歩けるようになりたい」という希望の背景には、さまざまな目的があります。
自宅のトイレまで一人で移動したい
近所のスーパーへ買い物に行きたい
子どもの行事へ参加したい
仕事へ戻りたい
趣味の旅行を再開したい
同じ「歩く」という目標でも、必要な支援は異なります。
本人が実現したい生活まで確認して初めて、どの支援先が適しているのかを具体的に考えられるようになります。
医療から地域への一方通行にしない
退院後の連携は、医療機関から地域の事業所へ紹介して終わりではありません。
地域の支援者から医療機関へ情報を返すことも重要です。
地域側からは、次のような情報を医療機関へ伝えることができます。
どのような人を対象としているか
具体的にどのような支援ができるか
利用者が地域でどのような生活を送っているか
利用後に身体機能や生活、社会参加がどう変化したか
医療機関へ再相談した方がよい状態は何か
どの段階で次の支援へ移行するのか
地域での生活状況が医療機関へ共有されることで、病院側も退院後の変化を知ることができます。
また、地域の事業所にとっても、医学的な注意点や入院中の経過を理解することは、安全で適切な支援につながります。
医療から地域へ情報を送るだけではなく、地域から医療へも情報を返す。
この往復があって初めて、退院後の支援が一つの流れになります。

SHAREが目指しているのは「選べる地域」
SHAREは、退院後に必要となるすべてのサービスを提供しているわけではありません。
一方で、介護保険の通所介護、障害福祉サービスの自立訓練、自費リハビリ、指定運動療法施設、一般フィットネスなど、医療の後に続く複数の支援を展開しています。

SHAREが大切にしているのは、自社のサービスだけですべてを完結させることではありません。
本人の状態や目標を整理した結果、医療機関、訪問リハビリ、通所リハビリ、就労支援など、ほかの支援先が適していることもあります。
重要なのは、自社のサービスへつなぐことではなく、その人に必要な「次の支援」へつなぐことです。
そのためには、医療機関、ケアマネジャー、相談支援専門員、行政、介護・障害福祉事業所、運動施設などが、お互いの役割を理解する必要があります。
私たちが目指しているのは、制度の違いによって支援が途切れる地域ではありません。
本人や家族が選択肢を知り、専門職と相談しながら、自分に合った次の支援を選べる地域です。
まとめ
退院後の支援には、医療・介護・障害福祉・自費サービス・健康増進など、複数の選択肢があります。
しかし、それぞれの情報が異なる制度や組織のなかに分かれているため、本人や家族、支援する専門職にも全体像が見えにくくなっています。
選択肢が地域に存在していても、必要としている人へ伝わらなければ、利用にはつながりません。
必要なのは、サービスの一覧を渡すことだけではなく、
本人が何に困っているのか
どのような生活を望んでいるのか
医学的な管理が必要なのか
生活再建や社会参加を目指すのか
運動習慣をつくりたいのか
を一緒に整理し、その人に合った選択を支えることです。
医療が終了しても、その人の生活は続きます。
医療・介護・障害福祉・運動の間にある見えにくい壁を越え、必要な支援へバトンをつないでいくことが、これからの退院後支援には求められていると考えています。
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総合病院での臨床経験を経て、株式会社SHAREに入社し、医療・健康・介護福祉の共創に励んでいます。 私たちが地域の皆様のお役にどう立てるか? 自治体・医療機関・地域にお住まいの皆様のお力をお借りし、これからも様々なことに挑戦してまいります。
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