令和8年度診療報酬改定で高次脳機能障害の退院後支援はどう変わる?2つのポイントを解説
2026年6月1日から、令和8年度診療報酬改定が施行されました。
今回の改定では、高次脳機能障害のある方に関する回復期リハビリテーション病棟の評価と、退院後の支援先へつなぐ仕組みについて、重要な見直しが行われています。
大きなポイントは、次の2つです。
- 一定の要件に該当する高次脳機能障害のある方が、回復期リハ病棟における「重症患者」の対象に追加された
- 地域の支援先を把握し、退院時に本人・家族へ情報提供することなどが要件化された
これは、単に診療報酬の点数や病院の施設基準が変わったというだけではありません。
入院中のリハビリだけで支援を終わらせず、退院後の生活、社会参加、復職なども見据えて、医療と地域の支援機関をつなぐ方向がより明確になった改定と考えられます。厚生労働省は、回復期リハ病棟が高次脳機能障害者支援センターや障害福祉サービス事業所などの情報を把握し、対象となる方の退院時に情報提供する仕組みを示しています。
なお、2026年4月には「高次脳機能障害者支援法」も施行されています。法律によって何が変わったのかは、以下の記事で詳しく解説しています。
→ 高次脳機能障害者支援法とは?2026年4月施行で何が変わるのか
この記事のポイント

変更点1
「重症患者」の対象に高次脳機能障害が追加
回復期リハ病棟入院料1~4の重症患者基準が見直され、一定の要件に該当する高次脳機能障害と診断された方が対象に加えられました。
変更点2
退院時の情報提供と地域連携を要件化
地域の支援先を事前に把握し、対象となる本人・家族へ説明することや、必要に応じて利用予定先へ計画書等を提供する仕組みが示されました。
1.高次脳機能障害のある方が「重症患者」の対象に追加
回復期リハビリテーション病棟入院料1~4では、重症患者の対象範囲が見直されました。
改定後は、従来のFIMなどによる基準に加えて、一定の要件に該当する高次脳機能障害と診断された方と、脊髄損傷と診断された方が新たに対象に加えられています。
高次脳機能障害では、歩行や食事などの身体的な動作が改善していても、記憶、注意、段取り、感情のコントロール、コミュニケーションなどに課題が残ることがあります。
今回の見直しは、こうした身体機能だけでは捉えきれない支援の必要性を、回復期リハ病棟の評価でも考慮する方向性を示すものと考えられます。厚生労働省資料では、対象となる高次脳機能障害患者について、施設基準上の範囲が定められています。
すべての高次脳機能障害者が対象になるわけではありません
「高次脳機能障害と診断された方が、全員自動的に重症患者として扱われる」という意味ではありません。
対象は、厚生労働省が定める患者区分などの要件に該当する方に限られます。また、診療報酬上の「重症患者」という区分と、障害の程度、障害者手帳、障害福祉サービスの利用要件は、それぞれ別の制度です。
個別の該当状況については、入院している医療機関へ確認する必要があります。
高次脳機能障害の症状や、生活の中で起こりやすい困りごとについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
2.退院時の情報提供と地域支援への連携が要件化
もう一つの大きな変更が、高次脳機能障害のある方に対する退院支援です。
回復期リハ病棟などには、高次脳機能障害のある方に適したサービスを提供する地域の機関について、所在地、連絡先、提供しているサービスなどの情報をあらかじめ把握することが求められます。
対象として示されているのは、主に次のような機関です。
- 高次脳機能障害者支援センター
- 他の医療機関
- 自立訓練や生活介護などの障害福祉サービス事業所
- 就労継続支援事業所
- 自立生活援助、共同生活援助の事業所
- 相談支援、計画相談支援を行う事業所
- 障害児支援を行う事業所や施設
対象となる方の退院時には、本人や家族などへこれらの情報を説明し、提供することが求められます。
さらに、退院後に医療機関、介護保険サービス、障害福祉サービスでリハビリテーションを継続する予定があり、本人または家族等の同意が得られた場合には、利用予定先へ3か月以内に作成したリハビリテーション総合実施計画書等を文書で提供することも示されています。
情報提供の範囲と計画書提供の条件
医療機関には、地域にある高次脳機能障害のある方に適した支援先の情報を把握し、退院時に本人・家族へ情報提供できる体制を整えることが求められています。
具体的な算定上の対象や運用については、厚生労働省の通知・疑義解釈に基づき、医療機関が確認する必要があります。
なお、リハビリテーション総合実施計画書等の文書提供は、退院後に医療・介護・障害福祉サービスでリハビリテーションを継続する予定があり、本人または家族等の同意が得られた場合に行われます。

なぜ高次脳機能障害では退院後の支援が重要なのか
高次脳機能障害は、外見から分かりにくいことが少なくありません。
病院では大きな問題がないように見えても、自宅へ戻り、実際の生活を再開したことで、次のような困りごとが明確になることがあります。
- 約束や予定を忘れてしまう
- 家事や作業の段取りを組めない
- 複数のことを同時に行うのが難しい
- 疲れやすく、集中が続かない
- 感情を抑えにくくなった
- 家族や職場の人との関係が変化した
- 一人での外出や金銭管理に不安がある
- 仕事へ戻れるか判断できない
そのため、退院時の身体機能やADLだけでなく、自宅でどのように暮らすのか、どのような役割を再開したいのか、社会とどうつながりたいのかまで確認する必要があります。
高次脳機能障害に対する具体的なリハビリ内容や、社会復帰までの支援については、以下の記事もご覧ください。
→ 高次脳機能障害リハビリとは?症状別の支援内容と社会復帰までの流れ
本人・家族が退院前に確認しておきたい5つのこと
制度が変わっても、退院後の支援先が自動的に決まるわけではありません。
可能であれば入院中から、医療機関のスタッフと次の内容を整理しておくことが大切です。
1.生活の中で起こりそうな困りごと
検査結果だけでなく、予定管理、服薬、買い物、金銭管理、家事、外出、人とのやり取りなど、実際の生活で起こりそうな課題を確認します。
2.本人が再開したい生活や役割
「歩けるようになりたい」だけでなく、具体的な生活目標を共有します。
例えば、
- 一人で買い物へ行きたい
- 家事を再開したい
- 公共交通機関を利用したい
- 趣味や地域活動に参加したい
- 仕事へ復帰したい
といった希望です。
3.家族が感じている不安
本人と家族では、困りごとの捉え方が異なることがあります。
本人の希望だけでなく、家族が不安に感じている場面や、退院後に家族へ集中しそうな負担についても共有します。
4.退院後に利用できる支援先
退院後の選択肢は、医療保険や介護保険だけではありません。
年齢、障害の状態、本人の希望などによっては、障害福祉サービスである自立訓練や就労移行支援などが選択肢になる場合があります。
→ 自立訓練とは?機能訓練・生活訓練の違い、対象者、利用期間を解説
5.地域の支援先へ引き継いでほしい情報
計画書や検査結果だけでなく、次のような情報が共有されると、退院後の支援を始めやすくなります。
- 高次脳機能障害の評価結果
- 有効だった声かけや説明方法
- メモやスマートフォンなどの代償手段
- 混乱しやすい場面や環境
- 疲労や体調変化の特徴
- 移動、転倒、服薬などの注意点
- 本人と家族が目指している生活
- 復職や社会参加に関する希望
退院後の生活をPT・OT・STはどう支えるのか
高次脳機能障害の退院後支援では、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などが、それぞれの専門的な視点を持ち寄ります。
理学療法士(PT)
移動、歩行、体力、屋外での活動などを評価し、安全に生活範囲を広げるための支援を行います。
作業療法士(OT)
家事、外出、予定管理、作業の段取りなど、具体的な生活行為や役割の再獲得を支援します。
言語聴覚士(ST)
失語症やコミュニケーション、記憶・注意などの認知機能、必要に応じて摂食嚥下に関する支援を行います。
ただし、PT・OT・STだけで支援が完結するわけではありません。
医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、介護職、相談支援専門員、就労支援員、家族などが情報を共有し、本人が望む生活に向かって連携することが重要です。
自立訓練は、退院後の生活と社会参加をつなぐ選択肢の一つ
自立訓練は、障害福祉サービスの一つです。
一定期間の訓練や支援を通じて、地域で生活するために必要な身体機能や生活能力の維持・向上を目指します。
高次脳機能障害のある方では、例えば次のような支援が考えられます。
- 安定して通所する練習
- 自分の症状や苦手な場面を理解する
- メモやスマートフォンなどの活用
- 外出や公共交通機関の利用
- 家事や生活行為の練習
- 対人関係やコミュニケーションの練習
- 作業能力や疲労の確認
- 社会参加や就労に向けた準備
自立訓練がすべての方に適しているわけではありません。
本人の状態、年齢、生活環境、目標、自治体による支給決定などを踏まえて、医療・介護・障害福祉の中から適した支援を考える必要があります。


SHAREが考える今回の改定の意味
SHAREでは、今回の改定を、医療と障害福祉を具体的につなぐための前向きな変化と受け止めています。
SHAREが自立訓練を始めた背景には、病院でのリハビリを終えた後も支援を必要としている方がいる一方で、医療と地域生活の間に空白が生まれやすいという課題がありました。
→ なぜSHAREは自立訓練を始めたのか|札幌から広がる地域リハビリ支援
病院が地域の支援先を把握し、本人・家族へ情報提供することが制度上求められるようになったことは、退院後の支援を早い段階から考えるきっかけになります。
一方で、制度が変わっただけで、連携が自動的に完成するわけではありません。
地域の事業所側も、
- どのような方を支援できるのか
- どのような専門職が関わるのか
- 退院前から相談や見学ができるのか
- 病院からどのような情報を受け取れるのか
- 生活や社会参加へどう支援を広げるのか
を、医療機関や本人・家族に分かりやすく伝える必要があります。
SHAREが運営するチャレンジドジムでは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師などが連携し、身体機能、高次脳機能、言語・コミュニケーション、生活課題、社会参加など、一人ひとりの目標に合わせた支援を行っています。
退院後の支援先が決まっていない段階や、どの制度が適しているか分からない段階でも、早めに情報を集め、病院のスタッフや地域の支援機関へ相談することが大切です。
まとめ|退院をゴールにせず、地域生活へのつながりを考える
令和8年度診療報酬改定では、高次脳機能障害に関して、次の2点が見直されました。
- 一定の要件に該当する方が、回復期リハ病棟の「重症患者」の対象に追加された
- 地域の支援先の把握、本人・家族への情報提供、必要に応じた計画書等の提供が要件化された
高次脳機能障害は、退院後に実際の生活を再開してから、困りごとが明確になる場合があります。
退院をゴールにするのではなく、本人がどのように暮らしたいのか、どのような役割や社会参加を目指したいのかを確認しながら、医療、介護、障害福祉の支援をつないでいくことが、これまで以上に重要になります。
高次脳機能障害の退院後支援について相談したい方へ
SHAREでは、札幌を中心に、高次脳機能障害や失語症のある方に向けた自立訓練、生活支援、社会参加に関する相談を受け付けています。
本人・家族からの利用相談だけでなく、医療機関や相談支援事業所など、支援者の方からの施設見学や退院後の支援先に関するご相談にも対応しています。
退院後の支援先が決まっていない段階でも、お気軽にご相談ください。
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よくある質問
高次脳機能障害と診断されると、全員が重症患者の対象になりますか?
いいえ。高次脳機能障害と診断されたすべての方が、自動的に診療報酬上の重症患者になるわけではありません。厚生労働省が定める患者区分などの要件に該当する必要があります。個別の該当状況は入院している医療機関へご確認ください。
退院時の情報提供は、すべての高次脳機能障害のある方が対象ですか?
医療機関には、高次脳機能障害のある方に適した地域の支援先を把握し、退院時に本人・家族へ情報提供できる体制を整えることが求められています。具体的な算定上の対象や運用については、厚生労働省の通知・疑義解釈に基づいて医療機関が判断します。なお、利用予定先への計画書等の提供には、退院後の移行予定や本人・家族等の同意などの条件があります。
退院後の支援先は、退院してから探してもよいですか?
退院後から探すこともできますが、利用手続きや見学に時間を要する場合があります。可能であれば、入院中から医療ソーシャルワーカーやリハビリスタッフなどに相談し、情報収集を始めることをおすすめします。
自立訓練は、高次脳機能障害のある人も利用できますか?
状態や利用要件によっては利用できる場合があります。利用には自治体による障害福祉サービスの支給決定が必要です。対象になるか分からない場合も、自治体の窓口、相談支援事業所、自立訓練事業所などへ相談できます。
病院から地域の事業所へ、どのような情報を引き継ぐとよいですか?
リハビリテーション計画書や評価結果に加え、本人の生活目標、有効だった支援方法、混乱しやすい場面、疲労やリスク、家族の状況などが共有されると、地域での支援を始めやすくなります。
参考資料
※本記事は2026年7月3日時点で公表されている資料をもとに作成しています。個別の算定や施設基準については、厚生労働省の通知、疑義解釈、入院中の医療機関へご確認ください。
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